「どこまで下げればいい? LDLコレステロールと認知症リスクの意外な関係
- たくや いわさき
- 4月8日
- 読了時間: 3分
はじめに
LDLコレステロール(LDL-C)の値が、心臓だけでなく脳にも影響を及ぼすかもしれないと聞いたら驚きませんか? Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry(BMJ)に掲載された最近の研究によると、LDL-Cを70 mg/dL未満に抑えることで認知機能を守る可能性が示されています。しかし、「低ければ低いほどいい」という単純な話ではないようです。本稿では、その研究結果と、現代の医学にどのような意味をもたらすのかを詳しく見ていきましょう。
研究概要
この研究は、韓国の11病院で約90万人の患者を対象に行われました。LDL-Cが70 mg/dL未満の群と130 mg/dL超の群を比較し、公平性を保つために傾向スコアマッチングを実施。さらに、より低い閾値(<55 mg/dL、<30 mg/dL)やスタチン使用の影響についても検討しています。
主な発見
LDL-C <70 mg/dL:認知症リスクが約26~28%低下。アルツハイマー型認知症のリスクも顕著に減少。
LDL-C <55 mg/dL:リスク低減は約18%と一定の効果があるものの、<70 mg/dLほど顕著ではない。
LDL-C <30 mg/dL:認知症リスクをさらに下げる効果は確認されず、ほぼ“頭打ち”。
スタチン使用:スタチンを使っていてもLDLが70 mg/dL未満なら認知症リスクが下がるが、<55 mg/dLでは有意な差がみられない。
スタチンの種類:リポフィリックかヒドロフィリックかで顕著な差は認められなかった。
なぜ重要なのか
従来、心血管の健康を考えるうえでは「LDLは低いほど良い」とされてきました。しかし、この研究によると、認知症の観点では70 mg/dLを下回るとリスクが下がる一方、30 mg/dL以下まで極端に下げても追加のメリットが得られないという「しきい値」のようなものが見えてきました。研究では超低LDLによる明確な悪影響は示されていませんが、必要以上に下げようとすれば副作用やコスト面の考慮が必要となるでしょう。
進化医学の視点
興味深いことに、進化医学の視点から考えると、LDLが低い方が人類にとって“本来の姿”とも言えます。現代でもツィマネ族やハザ族といった狩猟採集民は50~70 mg/dLほどのLDL値で暮らしており、動脈硬化がきわめて少ないことが知られています。本研究は「人類の体はもともと低LDLに適応しているのでは?」という仮説を後押しする結果とも言えるでしょう。もちろん今後さらにデータを集める必要があります。
実践的なポイント
目標はおおむね70 mg/dL:心血管リスクだけでなく、認知症リスクの低減を考えても70 mg/dL未満を目指す意義は大きい。
30 mg/dL未満:これより下げても認知症を予防する追加効果は乏しいため、個々の事情に応じて医師と相談すべき。
スタチン療法:有効な手段だが、目標値の設定や薬剤の種類は個々のリスクや副作用を考慮して決定する必要がある。
生活習慣の重要性:食事や運動、禁煙などはLDL改善だけでなく、総合的な健康維持に不可欠。
結論
この新たな研究は、LDLコレステロールが心臓のみならず脳の健康にも大きく関わる可能性を示唆しています。LDLを70 mg/dL以下まで下げることで認知症リスクを軽減できる一方、それをさらに下回っても大きな追加メリットは得られないという点は興味深い発見です。ただし、進化の視点から見ると「もっと低い方が人類本来の値では?」という指摘には一理あり、今後さらなる研究が期待されます。最終的には、医師などの専門家と相談し、自分に合った方法でLDLを管理することが理想です。
行動を起こそう
最近LDL値を測っていない方は、心臓だけでなく脳の健康を守るという観点からも、検査を受けてみてはいかがでしょうか。必要に応じてLDL値を下げることで心と身体の両面を守れるかもしれません。狩猟採集民時代の“設計図”がいまなお生きていると考えると、私たちの身体にとってより自然なLDL値とは何か——その答えを探ってみる価値はあるはずです。
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