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糖尿病治療の新たな可能性:感染症リスク低減とSGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬

はじめに


糖尿病治療はここ数年で大きな進化を遂げています。その焦点は単なる血糖コントロールから、心血管保護、腎臓保護、そして炎症抑制にまで広がっています。そして最近の研究では、糖尿病治療薬が感染症リスク、特に肺炎や重症敗血症を軽減する可能性があることが示唆されています。

今回は、2025年に発表された論文(Henney et al., Thorax, 80: 32-41)をもとに、SGLT2阻害薬(以下、SGLT2i)とGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1 RA)の感染症リスク低減効果について解説します。



研究の概要

この研究は、大規模な医療データベース(TriNetX)を用いた後ろ向きコホート研究です。以下の2つの比較群で、肺炎と重症敗血症のリスクを調査しました。


  1. SGLT2iとDPP-4阻害薬(以下、DPP-4i)

  2. GLP-1 RAとDPP-4i


結果は以下の通りです。

  • SGLT2i:肺炎および重症敗血症リスクが約25%低減。

  • GLP-1 RA:肺炎リスクが約40%低減。



メカニズムの考察

これらの薬が感染症リスクを下げる背景には、以下のようなメカニズムが考えられます。


1. 抗炎症作用

GLP-1 RAは全身の炎症反応を抑制する作用があるとされています。特に肺に存在するGLP-1受容体を介して、局所的な炎症を和らげる可能性が指摘されています。


2. 体重減少効果

SGLT2iとGLP-1 RAはともに体重を減少させる効果があります。肥満は炎症や免疫低下のリスク因子であるため、体重減少が間接的に感染症リスクを低減する可能性があります。


3. 血糖値の安定化

安定した血糖コントロールは、免疫機能を維持する重要な要素です。これらの薬は優れた血糖降下作用を持ち、感染症リスク低下に寄与している可能性があります。



研究の強みと限界


合理性障害のチェック

本研究は観察研究であり、因果関係を直接証明するものではありません。しかし、異なる解析手法や感度分析でも一貫した結果が得られており、一定の合理性が確認されています。


反証可能性

ランダム化比較試験(RCT)が行われ、異なる結果が出た場合には本研究の結論が反証される可能性があります。この点は科学的議論として健全であり、さらなる検証が求められます。



新たな視点の重要性


糖尿病治療薬の役割を「血糖値を下げる」だけにとどめず、感染症リスク軽減や炎症抑制効果まで考慮することで、治療の選択肢がさらに広がる可能性があります。例えば、SGLT2iとGLP-1 RAを併用することで相乗効果が得られる可能性もあります。



まとめ

SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が感染症リスクを低減する可能性は、糖尿病治療における新たな視点を提供しています。この仮説はまだ完全に証明されたわけではありませんが、リアルワールドデータに基づく興味深い示唆として注目されます。糖尿病治療を検討している患者さんは、主治医と最新のエビデンスを共有しながら最適な治療方針を選択することが大切です。



参考文献

Henney AE, Riley DR, Hydes TJ, et al. Comparative estimate of glucose-lowering therapies on risk of incident pneumonia and severe sepsis: an analysis of real-world cohort data. Thorax. 2025;80:32–41.

 
 
 

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