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コロナワクチンが「がん免疫療法」を後押し?

更新日:4 日前

ESMO 2025発表の“観察研究”をわかりやすく解説

動画でもわかりやすく解説してます!




要点(3行まとめ)


• 進行肺がん・皮膚がん(メラノーマ)患者で、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)開始の前後100日以内にmRNA型のCOVID‑19ワクチンを打った人は、未接種より長く生存していたという関連が報告されました(ESMO 2025)。 


• ただしこれは非ランダム化の観察研究。因果関係は未確立です。見出しの“コロナワクチンががんを治す”は言い過ぎ。 


• 機序の仮説は「mRNAワクチンで免疫が活性化→腫瘍側のPD‑L1が上がり、PD‑1/PD‑L1阻害薬が効きやすい環境になる」。過去の学会抄録でも同方向のシグナルが出ています。 





目次


• 1. 何が話題になっているの?


• 2. データをもう少し具体的に


• 3. なぜ効き目が上がる“かもしれない”の?(仮説)


• 4. 大事な注意点:これは観察研究です


• 5. いま患者さんとご家族が知っておきたいこと


• 6. よくある誤解(インフォデミック対策)


• 7. 「同様の報告」は以前からあった?


• 8. まとめ


• 参考資料(一次情報・公式発表など)





1. 何が話題になっているの?



2025年10月、ベルリンで開かれたESMO 2025で、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターとフロリダ大学の研究チームが次のようなデータを発表しました。


ICI開始の前後100日以内にmRNA型のCOVID‑19ワクチンを接種した進行非小細胞肺がんとメラノーマの患者は、未接種の患者よりも3年後の生存割合が約2倍だった、というものです。これを受けて第III相ランダム化試験の計画も進んでいます。 



研究チームの広報は「標準的なmRNAコロナワクチンが免疫療法の反応を高める可能性」と説明。ただし治療用“万能がんワクチン”が確立したという意味ではありません。 





2. データをもう少し具体的に



MDアンダーソンで2019年8月〜2023年8月に治療を受けた1,000例超の後方視的解析です。主な結果は次のとおり。 


• 非小細胞肺がん(NSCLC)


• 接種あり 180例:生存期間中央値 37.33か月


• 未接種 704例:同 20.6か月  


• メラノーマ


• 接種あり 43例:中央値は未到達


• 未接種 167例:26.67か月  


• 効果は“免疫学的に冷たい”腫瘍(PD‑L1低発現)でより大きく、3年全生存で約5倍の差という記述もあります。 



重要:上は関連(association)であり、**因果(causation)**ではありません。解析手法や交絡の扱いなど、査読論文での詳細公開が待たれます。 





3. なぜ効き目が上がる“かもしれない”の?(仮説)



mRNAワクチンは自然免疫(IFNシグナルなど)を刺激し、免疫系を「警戒モード」にすると考えられています。その結果、腫瘍側は防御反応としてPD‑L1の発現を上げますが、まさにPD‑1/PD‑L1阻害薬はこの“盾”を外す薬。ワクチンで環境を整え、ICIが効きやすくなるという筋道です。 



この仮説を裏づける先行シグナルもあります:


• ESMO 2024(Annals of Oncology 抄録 995MO)


「生検の100日以内のmRNA接種」→腫瘍PD‑L1が平均+23%、メラノーマで全生存ハザード比0.42**(死亡リスク58%低下)という関連。 


• MDアンダーソンの2024年研究ハイライトでも、PD‑L1上昇とサバイバル改善のシグナルが紹介されています。 





4. 大事な注意点:これは観察研究です



このニュースは希望を感じさせますが、誤解は禁物です。


• 非ランダム化:接種群と未接種群で健康意識・医療アクセスなどが異なる可能性(交絡)。


• immortal time(保証期間)バイアス:ワクチン接種“まで生存できた”時間が、見かけの生存延長に影響する恐れ。


• 競合リスク:ワクチンによりCOVID‑19死亡が減るだけでも全生存(OS)は延びる。腫瘍そのものへの効果と切り分けが必要。



以上はランダム化比較試験でしか最終確認できません。現時点では標準治療を置き換える根拠にはならない、が正しい読み方です。 





5. いま患者さんとご家族が知っておきたいこと


• 治療方針の変更は早計:今回の結果だけで「ワクチンを打てば治る」とは言えません。主治医と相談の上、公衆衛生上の接種推奨に沿って判断を。 


• 安全性の面では:インフルエンザなどワクチンとICIの併用は概ね安全とされ、これまでの報告では有害事象の増加は限定的です(参考:既報の総説・観察研究)。 


• タイミング:今回の観察研究ではICI開始の前後100日が1つの“窓”として語られましたが、最適な時期は未確定。無用な接種遅延・治療遅延を避け、個別状況で調整しましょう。 





6. よくある誤解(インフォデミック対策)


• 「コロナワクチン=万能がん治療」ではない:あくまでICIとの併用で良い関連が見えた段階。単独で腫瘍を縮小させる治療薬として確立したわけではありません。 


• 「どのがんにも効く」ではない:今回の主対象はNSCLCとメラノーマ。他腫瘍でも同じとは限りません。 


• 「今すぐ医療現場の常識が変わる」わけでもない:第III相試験の結果が出てはじめて、ガイドラインや標準治療に組み込まれる可能性が議論されます。 





7. 「同様の報告」は以前からあった?



はい。2024年のESMO抄録(995MO)では、mRNA接種100日内とPD‑L1上昇・生存改善の関連が報告済みです。2025年のESMOではより大きな集団・長期生存のデータがニュースルームや学会レポートで詳細に紹介されました。 


一般向け報道(STATなど)でも取り上げられています。 





8. まとめ


• mRNA型COVID‑19ワクチンがICIの効き目を底上げしている可能性を示す観察研究がESMO 2025で話題に。


• 生存中央値の延長や3年生存の差など、数字的にも大きいシグナルが出ましたが、交絡やバイアスの懸念が残ります。


• 次はランダム化試験。結果が確立すれば、「誰もが受けられる安価なワクチン」×「免疫療法」の組み合わせが治療成績を引き上げる可能性があります。現時点では期待しつつ慎重に。 





参考資料(一次情報・公式発表・抄録など)


• MDアンダーソン研究ニュース:「ESMO 2025: mRNA‑based COVID vaccines generate improved responses to immunotherapy」— 主要数値(NSCLC/メラノーマの生存中央値、3年生存、低PD‑L1での効果大、LBA54)を含む詳細。2025年10月19日。 


• フロリダ大学(UF)McKnight Brain Institute ニュース:「Study finds COVID‑19 mRNA vaccine sparks immune response to fight cancer」。研究の背景や意義について一般向けに解説。2025年10月19日。 


• Annals of Oncology(ESMO 2024, 抄録 995MO):Grippin AJ, et al. Association of SARS‑CoV‑2 mRNA vaccines with tumor PD‑L1 expression and clinical responses to immune checkpoint blockade. DOI: 10.1016/j.annonc.2024.08.1054(PDF抄録への導線あり)。 


• MDアンダーソン Research Highlights(ESMO 2024特集):PD‑L1上昇と生存改善のシグナルを要約。2024年9月。 


• STAT News(一般向け解説):「mRNA Covid shots may boost the effects of certain cancer treatments, study suggests」。2025年10月19日。 



※学会発表・広報素材は速報性重視で、査読論文とは位置づけが異なります。今後の査読出版とランダム化試験の結果を待って、臨床実装の可否が判断されます。 

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