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新型コロナ感染者数データで見る季節的流行パターン

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は季節性のあるウイルスなのでしょうか?インフルエンザなど多くの呼吸器ウイルスは毎年冬に流行のピークを迎えますが、COVID-19については夏季にも大きな流行が起こっているとの指摘がありますpublichealth.jhu.educdc.gov。本記事では、日本・米国・英国の感染者数データ(2020年初頭~2025年7月)をもとに、COVID-19流行の季節性を検証します。各国の新規感染者数の推移から、夏と冬にピークが集中しているかを確認し、季節性インフルエンザとの類似・相違を比較します。また、気温・湿度など環境要因や人々の行動変化が流行に与える影響について考察し、得られた知見から今後の対策への示唆を探ります。


データと分析の概要

分析には各国の公式統計や信頼性の高いデータセットを使用しました。例えばWHOや各国保健当局が公表する週次感染者数データや、Our World in Dataの時系列データなどです。それらを基に時系列グラフを作成し、年ごとの流行波(第○波)の発生時期を確認しました。特に大規模な流行ピーク(月次または週次の新規感染者数の最大期)に注目し、それらが一年のうちどの時期に集中しているかを調べました。また、季節性インフルエンザの流行パターン(主に冬季に流行)とも照らし合わせ、COVID-19がインフルエンザと似た季節性を示すのか、それとも異なる挙動をとるのかを考察しました。


日本:夏と冬に訪れた大小の流行波

日本における新型コロナの流行状況を見ると、夏季と冬季に大きな感染拡大が繰り返されてきました。具体的には、2020年夏(第2波)2021年夏(第5波)2022年夏(第7波)に毎年大規模な流行が発生していますasahi.com。例えば2021年8月の第5波(デルタ株流行)や、2022年7~8月の第7波(オミクロン株BA.5流行)は、それまでにない規模で感染者数が急増しました。また冬季にも大きなピークが見られ、2020年末~21年1月(第3波)2021年末~22年1月(第6波)2022年末~23年1月(第8波)といった具合に年末年始頃に感染者数が急増しています。第8波(2022年冬)では1日あたり新規感染者が20万人を超え、夏の第7波に匹敵する規模の流行となりました。以上のように、日本では毎年夏と冬に感染拡大が顕著になる傾向が読み取れます。asahi.com

一方、春季・秋季には上記ほどの大波は立たないものの、小~中規模の流行が発生しています。たとえば2021年春(4~5月)の第4波(アルファ株主体)や、2023年春先(XBB系統の流行、第9波序盤)などがあります。しかし総じて見ると、最大規模の流行は夏と冬に集中しており、日本のCOVID-19流行曲線には一年に2つの山があるパターンが現れていました。この現象は日本の専門家からも指摘されており、「過去の状況を踏まえると夏に新規感染者数が増える可能性がある」こと、実際2020年以降毎年夏に流行拡大してきたことが報告されていますasahi.com。冬の流行についても、第8波までの経験上「年末年始にかけて感染が再拡大しやすい」ことが知られています。以上より、日本ではCOVID-19が夏季と冬季に繰り返し流行のピークを迎えてきたと言えます。


米国:データが示す「二峰性」の季節動向

図1:米国におけるCOVID-19流行の季節的パターン(2020年~2024年)。青色の縦帯は冬(12~2月)、赤色の縦帯は夏(7~9月)の期間を示す。黒線は検査陽性率の推移で、新たな変異株(Δ:デルタ株、Omicron BA.1/BA.5/BA.2.86など)が流行するたび、冬季および夏季に陽性率の大きな山が現れているcdc.govcdc.gov。(出典:米国CDC COVID-19データ)

米国でも、日本と同様に冬と夏に感染者数の山が現れる傾向がはっきりと確認できます。米国CDC(疾病対策センター)の解析によれば、過去4年間の米国のCOVID-19発生動向を見ると、毎年冬に明確なピークがあり、さらに夏にも再度ピークが生じていることがデータに表れていますcdc.gov。例えば、直近では2023年12月下旬~24年1月上旬に冬のピーク、そして2023年7~8月に夏のピークが発生しましたcdc.gov。このようにCOVID-19は「典型的な冬のウイルス」ではなく、夏を含む一年中の様々な時期に周期的なサージ(急増)がみられる点が特徴ですcdc.govcdc.gov。実際、2020年以降の米国では毎年夏(主に7~8月)に感染者数が上昇しており、その背景にはウイルス変異や免疫低下など複数の要因があるとされていますpublichealth.jhu.educdc.gov。冬の流行波は年末年始(11月~翌年2月頃)にかけて生じ、夏の流行波は7~8月にかけて生じるケースが多く、年に2回の大きな波(冬と夏)が繰り返される傾向が顕著ですpublichealth.jhu.educdc.gov。こうした**「二峰性」の季節パターン**は、後述するように従来のインフルエンザとは異なるCOVID-19特有の現象です。

CDCは「COVID-19にはインフルエンザのような明確な“シーズン”はない」が、冬のピークと夏のピークの両方が存在すると総括していますcdc.gov。加えて、新規変異株の出現やワクチン・感染による免疫減衰によって冬以外の時期にも流行が起こり得るため、今後もしばらくは一年に複数回の波が続く可能性があるとされていますcdc.gov。以上より米国では、冬季の大流行に加え、毎年夏にも明確な再流行が発生しており、季節性インフルエンザとは異なる周期で注意が必要となっています。


英国:年に複数回の波と季節傾向

イギリス(英国)でもCOVID-19感染者数の波は繰り返し発生しましたが、その発生タイミングは米国と比べてやや不規則で、高頻度でした。イギリスは人口当たりのワクチン接種率が高かったものの、2021年以降はほぼ常時感染が広がり、年に3~4回もの波が起きているとの分析がありますgavi.org。事実、2021年冬~22年初頭のオミクロン株による記録的な大流行(第3波)、2022年春のBA.2系統流行、夏(6~7月)のBA.5系統流行、秋~初冬(10~12月)の波、と一年の中で複数の中規模以上の流行が確認されました。特に冬季には2020/21年冬と2021/22年冬に非常に大きな感染急増が発生し、医療に大きな負荷がかかったことが報告されています。一方、夏季も油断できず、2021年7月にはデルタ株の流行で制限緩和下にも関わらず感染が拡大し、2022年7月にもBA.5型で入院者が増加しました。英国保健当局によれば、こうした年間3~4回の波動は現在も続いており、感染者数は冬と夏を中心に、高いレベルで上下を繰り返している状況ですgavi.org

このように英国では波の頻度が多いものの、大きな波はやはり冬季と夏季に集中しています。夏の感染拡大も毎年確認されており、米国同様に**「冬+夏」二つのピークが一つの年の中で見られる傾向にありますgavi.org。もっとも、英国の場合は春や秋にも中程度の増加が起きるため、必ずしも季節がはっきり区切られてはいません。しかし、最大級の流行は冬場(例:オミクロン株流行期)と真夏(例:デルタ株・BA.5流行期)に訪れている点は共通しています。現在のイギリスでは「年中ある程度の感染が続き、年間を通して3~4回の流行波が発生している」段階にありますが、その中でも冬期と夏期の波が特に顕著**であることは、他国と同様に注目すべき特徴ですgavi.org


季節性インフルエンザとの比較

上記3か国の動向から、COVID-19の流行パターンは従来の季節性インフルエンザとは異なることが分かります。インフルエンザは温帯地域において毎年ほぼ冬に限定して大流行しますwho.int。日本・米国・英国いずれもインフルエンザの流行期は概ね11月~3月で、夏場は患者数が極めて少なくなります。一方、新型コロナは前述の通り夏にも大きな波を持つ点でインフルエンザと異なりますcdc.gov。米国CDCも「インフルエンザやRSウイルスは夏にほぼ活動しないが、COVID-19は夏にも有意な活動が見られる」と指摘していますcdc.gov。この違いはどこから来るのでしょうか。

最大の要因として、年間を通じたウイルスの存在度合い変異による感染力変化が挙げられます。専門家によれば、夏であってもCOVID-19は一定の感染者が残存している母数(感染の土壌)がインフルより遥かに大きいため、行動様式の変化がそのまま次の流行につながりやすいといいますpublichealth.jhu.edu。実際、夏場の人々の活動(旅行やイベント、人の移動)は活発ですが、インフルエンザの場合そもそもの感染者が極少数のため大きな波には繋がりません。しかしCOVID-19では夏でも比較的高い水準で感染者が存在し、そこに行動要因が重なることで大規模拡大が起こり得るのですpublichealth.jhu.edu。さらに、新型コロナウイルスは変異により感染力や免疫逃避能力を変化させるスピードが速く、その都度新たな亜系統が登場して流行を引き起こしていますpublichealth.jhu.edupublichealth.jhu.eduウイルス自体の可変性が高いことも、季節に関わらず波を生む一因です。

対してインフルエンザウイルスも毎年変異はしますが、そのシーズン中に突然感染力が倍増するような変化は稀であり、主に気候条件と人間の生活パターンによって冬季にピークを迎えますwho.intwho.int。言い換えれば、インフルエンザは**「冬の季節性」を確立していますが、COVID-19は「年に複数回の季節性(冬+夏)」を示している状況ですpublichealth.jhu.edugavi.org。現在も多くの専門家が「いずれCOVID-19もインフルエンザのように冬中心のシーズナリティに落ち着くのではないか」と予想していますがpublichealth.jhu.edu、少なくともパンデミックからエンデミックへの過渡期にあたるこの数年間は、従来にない夏季の大流行**が続いているのが現状です。


環境・行動要因が与える影響

なぜCOVID-19は夏にも流行するのでしょうか。考えられる原因として、ウイルスの性質人間の行動変容気候環境の3つが複合的に影響していると考えられていますgavi.orgpublichealth.jhu.edu。まずウイルス自体の性質として、SARS-CoV-2は高温多湿の環境下でも感染力を維持しやすい可能性があります。一般に冬は空気が乾燥し低温なため飛沫核が空中に漂いやすくウイルスの生存期間も延びることで感染拡大が促進されますcdc.gov。一方夏は高温多湿で飛沫の拡散力が下がるため多くのウイルスは不活性化しやすいのですが、SARS-CoV-2は夏の湿度・気温にも適応して感染を広げているとの指摘がありますgavi.org。現時点でそのメカニズムは十分解明されていませんが、少なくとも「暑いからウイルスが死滅して流行しない」という単純な図式はCOVID-19には当てはまらないようですgavi.org

人間の側の要因としては、夏特有の生活行動パターンが挙げられます。暑い時期、人々は熱中症対策で屋内で冷房をつけて過ごす時間が増えます。窓を閉め切った空調空間では換気が不十分になりがちで、ウイルスが停滞・濃縮されて感染しやすくなりますpublichealth.jhu.edu。事実、夏場に冷房の効いた室内で過ごすことは冬場に暖房をつけて閉じこもるのと似た状況を生み、夏でも「屋内密集・換気不足」のリスク環境が生じますcdc.gov。加えて、長期休暇による旅行や帰省、イベントなど、人の大規模移動や接触機会の増加も夏に感染拡大を招く重要なファクターですasahi.compublichealth.jhu.edu。お盆休みや夏休みシーズンには普段会わない地域の人々が交わり、ウイルスが広域に運ばれることで流行が加速します。2020年以降の各国の経験からも、「人の動きが活発になる夏に感染が拡大しやすい」ことは共通した特徴として挙げられていますasahi.compublichealth.jhu.edu

以上のように、ウイルスの環境適応力人間の行動パターンの季節変化が相まって、夏のCOVID-19流行を引き起こしていると考えられます。特に「ワクチン効果や感染による免疫が時間と共に薄れる時期がちょうど夏に訪れる」点も見逃せませんpublichealth.jhu.edu。前年秋冬に接種したワクチンの効果や感染後の免疫は半年ほどで低下し、ちょうど夏頃に多くの人が再び**免疫ギャップ(防御力の低下)**を抱えることになりますpublichealth.jhu.edu。このタイミングで新たな変異株が出現すると一気に感染が広がりやすく、夏の流行波をもたらす一因となっていますpublichealth.jhu.edu


季節パターンの今後と対策の示唆

COVID-19の季節的流行パターンは、パンデミック初期と比べて徐々に変化しつつあります。専門家の間では「いずれ冬に集中するようになる」との予測もありますが、現時点(2025年)では冬と夏に波が来る二峰性が続いているのが実情ですpublichealth.jhu.educdc.gov。このため、公衆衛生上の対策も年間を通した備えが求められます。米国CDCは「いつCOVID-19がピークになりやすいかを知ることは、対策資源の配分や医療提供体制の準備に重要だ」と述べていますcdc.gov。特に冬場はインフルエンザやRSウイルスの流行とも重なるため、ワクチン接種や予防策の呼びかけを秋に集中させる戦略が取られていますcdc.gov。実際、米国では2023年秋以降、COVID-19ワクチンを年1回の秋(初冬前)の定期接種に移行しましたpublichealth.jhu.edu。これは冬の流行ピークに備える狙いがあります。

しかし、もし今後も夏の波が定常的に続く場合、高リスク者への追加対策も検討が必要です。専門家は「特に高齢者や免疫脆弱者には、冬だけでなく夏前にも追加のワクチン接種を促すことになるかもしれない」と指摘していますpublichealth.jhu.edu。ただし現行のワクチン更新スケジュールでは夏前に新株対応ワクチンが間に合わない可能性もあり、難しい舵取りが求められますpublichealth.jhu.edupublichealth.jhu.edu。将来的にCOVID-19が季節性インフルエンザのような冬季中心のサイクルに落ち着けば、対策も「毎秋のワクチン接種」で十分となるでしょう。しかし変異の不確実性免疫低下が続く限り、夏の波も想定した柔軟な対策が必要ですcdc.gov

幸い、2023年夏の流行(第9波)では多くの人が軽症で済み、結果的に集団免疫の底上げが起きたことで一時的に感染は下火になりましたpublichealth.jhu.edu。今後もこのように波を経て徐々にウイルスとの共存状態が安定し、数年かけて季節的な型にはまっていく可能性がありますpublichealth.jhu.edu。1918年のスペインかぜ(インフルエンザ)の例でも、パンデミック後5~6年で冬季流行のパターンに落ち着いた記録がありますpublichealth.jhu.edu。COVID-19もあと数年で「冬の定期的な流行」に移行するとの見方はありますが、それまでは**「最悪は去っていない可能性」も念頭に置く必要がありますgavi.org。WHOも依然として「高いウイルス循環が続けばさらに深刻な変異株が出現しうる」と警鐘を鳴らしておりgavi.org、私たちは季節を問わず基本的な感染対策を怠らないこと**が重要です。


おわりに

日本・米国・英国のデータを検証した結果、COVID-19の感染者数は夏と冬にピークが集中する傾向が明らかになりました。これは季節性インフルエンザと似て非なる現象であり、ウイルス学的・行動学的な複合要因によって生じています。現状では一年に二度の流行波が当面続くと考えられるため、夏と冬の両方に備えた公衆衛生戦略が求められます。幸いワクチンや治療薬の開発・普及により重症化率は大きく低減しましたが、季節の変わり目ごとに新たな流行が起こるリスクは残っています。引き続きデータを注視しつつ、必要に応じたワクチン追加接種や基本的感染症対策(換気・マスク・手洗い等)を柔軟に取り入れていくことが、withコロナ時代を賢く過ごす鍵と言えるでしょう。


参考文献・情報源: 新型コロナウイルス感染症に関する各国公的機関の発表データおよび分析cdc.govcdc.govasahi.comgavi.orgpublichealth.jhu.eduCDCやWHOの季節動向に関する見解cdc.govcdc.govgavi.org、朝日新聞デジタル・専門家コメントasahi.com、ジョンズホプキンス公衆衛生大学院の解説記事publichealth.jhu.edupublichealth.jhu.eduなど。以上のエビデンスに基づき、COVID-19の季節性パターンを評価しました。

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